心筋梗塞を起こした時の心得と看護法

Q、万一、心筋梗塞を起こしたときの、本人の心得と、周囲の看護法を教えてください。
A、 心筋梗塞とは冠状動脈の循環障害による限局性心筋壊死で、激烈で持続の長い胸痛発作と、典型的心電図所見とを特徴としたものです。原因として冠動脈のアテローム (粥状)硬化が最も重要です。そのほか、冠動脈血栓、冠動脈痙攣スパスムなどが原因とされています。
 最も代表的な心筋梗塞症の臨床症状は、激しく、長時間にわたる前胸部痛です。通常、特別の誘因はなく、突然、前胸部、胸骨裏面、 窩部などに激しい痛みを覚えます。発作が起こるのは身体労作とは無関係で、一日中どの時刻にも起こりますが、夕食後、夜半などに起こる場合が比較的多いようです。胸痛は張り裂けるような痛みであり、突き刺さるような鋭い痛みではありません。突然、自分の胸の上に岩をのせられたような(締めつけられるような)痛みが前胸部に起こり、今にも死ぬような不安感を伴います。狭心症の場合には安静を保てばおさまりますが、心筋梗塞の場合は痛みが三十分以上続き、ニトログリセリン錠ではほとんど効果がみられません。このような場合、絶対安静にし、自分で体を動かすことは避け、できるだけ心臓に負担をかけないようにします。また、いたずらに不安感や恐怖感を抱いたり興奮すると、安静を乱すだけでなく、カテコラミンの分泌を促進し、不整脈や再発作を誘発する恐れが十分にあります。したがって、精神面ないし心理面にも注意を払い、安心感を与えるために周囲の人は刺激的な言動は慎みます。急性心筋梗塞が疑われる場合には、直ちに医師の往診を求めるなり、救急車を呼ぶことです。家庭療法は無理なので、CCU(冠状動脈疾患集中治療室) の整った病院に入院し、治療を受ける必要があります。
 急性心筋梗塞の主要な死因は、以前は不整脈四十%、ポンプ失調(心源性ショック、心不全)五十%、その他(心破裂、血栓、塞栓症)十%程度の割合でしたが、今日では不整脈による死亡率は、心電図をモニターしたり、抗不整脈剤、心臓ペースメーカーなどの応用によって減少しました。一方、ポンプ失調の予後は悪く、未だに致命率は八十%以上に達するといわれます。現在では、不整脈五%、ポンプ失調八十五%、その他十%の割合で、ポンプ失調が死因の大部分を占めるようになりました。急性心筋梗塞患者全死亡例の四十五%は発症後一時間以内、七十五%は二十四時間以内に死亡したという報告があります。心筋梗塞の発作には、軽いものから重いものまでいろいろありますが、いずれの場合も直ちに入院し、的確な治療を受けることが大切です。
 現在では、各大学医学部の付属病院や、心臓の専門病院にはたいていCCUの設備があり、専門の医師やナースがチームを組んで、心筋梗塞の合併症である不整脈、心源性ショック、心不全の治療に当たっています。この治療病室によって、発作直後から二十四時間以内に死亡する人の数が、三分の一に減少したことは、たいへんな医学の進歩といえましょう。




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