中高年に広がるアルツハイマー型痴呆

65歳未満に5万~10万人

 痴呆と言えば老人の病気と思われがちですが、実は働き盛りの中高年層の間でも増加しています。厚生省の「初老期における痴呆対策検討会」によると、一九九〇年で65歳末満の痴呆患者が、5万~10万人に達していると推定しています。
 家庭や社会で重要な役割を担う年代に発病するので、社会的影響は多大であると言わざるを得ません。
 某メーカーの社長に紹介されて当院を訪れたW氏(49歳)の例は参考になります。社長は、そろそろ取締役にと考えていたようですが、「もの忘れが激しく、様子がおかしいので診て欲しい」とのことです。本人の話でも、仕事への意欲がなく、新聞にも興味がなくなった様子です。長谷川式簡易知能評価スケールによる評点は、30点中20点で、20点以下であれば痴呆と判定されます。
 痴呆には脳血管性痴呆、アルツハイマー型痴呆、両者の混合型の三つがあり、アルツハイマー型が全体の半数を占めます。
 脳血管性とアルツハイマー型の違いは、前者が突然発症して、変動しつつ進行し、所々忘れるまだら痴呆であるのに対し、後者は徐々に発症し、直線的に進行し、トータルに忘れる全般的痴呆です。人格についても、前者は初期にはよく保たれているのですが、後者では早期より障害を受けます。
 アルツハイマー型痴呆では、健忘期、混乱期、痴呆期の3段階に進行していきます。健忘期では、物忘れと周囲への関心の低下が主で、うつ状態を呈することがあります。この状態は一般に2~4年続きます。
 混乱期になると判断力、理解力の低下、幻覚や妄想、失禁などの症状が表われ、介護が必要となります。痴呆期では、人格水準が低下し、言葉や自発的行動ができなくなり、徘徊や失禁がみられます。最後には植物状態となり死亡します。

薬の副作用でも起こる

 痴呆になるのは、これらだけに限ったことではありません。頭部外傷、脳腫瘍、脳炎、ビタミン欠乏や薬の副作用でも起こってきます。薬の服用によって起こる「医原性痴呆」はどのくらいあるのでしょう。
 91年と92年の2年間に今村病院(秋田市)の痴呆病棟や外来を利用した75人のうち19人、4人に1人が薬剤性痴呆であることが判明しています。これらの患者は、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ剤、脳代謝賦活剤など心の状態をコントロールする薬や脳機能を改善する薬を服用していたのです。さらに、降圧剤や抗がん剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド剤なども挙げられています。服用している薬を点検しましょう。
 アルツハイマー病の新薬も開発されていますが、感覚器や、運動器を通じ脳を賦活するのが予防の第一です。





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