自律神経失調症

自律神経失調症の症状

 自律神経失調症という言葉は最近たいへん多く使われるようになりました。しかし、自律神経失調症に伴ういろいろな症状や訴えがなぜおこるのかという原因などは、はっきりと決まっているものではありません。病院で診察や検査を受けても、とくに異常が認められないといわれたりすると、その人としては、自分が感じている苦しみや悩みが解決されないので、また別の病院で診てもらい、そこでも期待どうりの治療が受けられないということが少なくありません。
 自律神経失調症の症状の現われ方や、現われる体の部分はさまざまです。
 例えば手足の冷えが強く、顔はほてり、腰がだるく痛み、肩こりもある。さらに気分がイライラしがちで、寝付きが悪いなど、症状や訴えが一つだけではなく、二つや三つあるいはもっとたくさん出る場合が多いのです。さらに、いろいろな症状が移り変わることがあり、また、複雑にからみ合っていることもあれ、容易に解決がつきにくいのも、特徴のひとつです。こうした状態にいらだってストレスを増やし、さらに症状をこじらせることも少なくありません。

自律神経のしくみと働き

 自律神経は内臓や血管、汗腺などに分布して、胃や腸の消化吸収をする働きや、走ったときに脈拍を速くして心臓からの血液の供給を多くし、休むとまた元に戻すという働きをする神経系です。
 自律神経は、ふつう、私達の意志や思考とは関係なく働いていますが、呼吸や尿、便の排泄などは、ある程度意識的にすることもあります。
 自律神経には交感神経と副交感神経と呼ばれる2種類の神経があります。この両者は相反する作用もしますが、ときには協調もして、バランスのとれた働きによって、私達の体が健康に活動できるようにしています。例えば寒いときは交感神経の作用によって、血管が収縮し、体温の放散を防ぎますが、暑いときは副交感神経の作用によって血管が拡張し、発汗を促して体温を下げる働きをします。
 昼間、私達が働いているときは、交感神経の働きが盛んになっていますが、夜になつて眠るときは副交感神経のほうが優位になります。
 健康な状態では、交感神経と副交感神経がバランスを保って生理機能をいとなんでいますが、なにかの原因で、このバランスがどこかでくずれると、自律神経失調症と呼ばれる状懸になります。
 これには、交感神経が緊張して機能が克進してしまう状態と、副交感神経の働きが克進する状態のほか、両方がともに緊張したり、不安定になる場合があります。
自律神経失調症にみられる症状
 ◆ 精神神経系  ◆ 知覚神経系
頭痛、片頭痛 しびれ感
めまい、立ちくらみ 知覚の過敏
耳鳴り、不眠 鈍感
イライラする ◆ 消化器系
興奮する、もの忘れ 吐き気
不安感、恐怖感 のどのつかえる感じ
過呼吸症候群 食欲不振
無力感、脱力感 便秘と下痢
憂うつ、疲れ目 ストレス性胃十二指腸かいよう
視野の一部に暗点がでる  ◆ 皮膚や粘膜
 ◆ 血管運動神経系 汗が多くなる
熱感(カッと熱くなり汗がどっとでる) 皮膚がかゆい
ほてり、のぼせ 口の渇き
冷え性、寒がり 唾液が多い
動悸、胸苦しい  ◆ 泌尿器系
 ◆ 運動器官系 頻尿、残尿感
腰痛、肩こり  ◆ その他
筋肉や関節の痛み 疲労感、倦怠感

自律神経失調症の原因

●生活のリズムの狂い
 自律神経の働きには、一日のリズムがあるので、昼と夜をとりちがえたような仕事や生活、過労、睡眠不足など、生活のリズムの狂いが続くと、当然、交感神経と副交感神経の働きのリズムが乱され、自律神経失調症の原因になることが考えられます。
 とくに都市部に住む人では、年代を問わず、生活様式が多様化しているため、生活のリズムを乱している人が多いのではないでしょうか。
●ホルモン分泌の失調
 さて、男性よりも女性のほうに自律神経失調症が多く見られます。それは、女性に性周期と呼ばれる周期的なホルモン分泌の変化があることが原因になっています。
 女性には、卵胞ホルモン(月経の後、子宮内膜を増殖させる)と黄体ホルモン(排卵後、子宮内膜腺の分泌を盛んにして、着床の準備状態をつくる) というホルモンがあります。これらのホルモンの作用によって、排卵や月経、妊娠という女性の性機能がいとなまれます。ホルモン作用がうまく調整されている女性は、正常な性周期を繰り返すことができますが、ホルモンのバランスがくずれると、それは自律神経中枢にも影響をおよぽし、自律神経失調症や情緒面の障害をおこす原因になります。その例の一つが更年期障害に伴う自律神経失調症です。
●思春期、肥満、無理なダイエット
 若い女性でも、月経が来潮して間もない未成熟の時期や、肥満を嫌って無理なダイエットをし、短期間に体重を落としたりしたときに、ホルモンのバランスがくずれ、排卵障害による無月経、不正出血の持続や、一ケ月に二度も月経がくる頻発月経などが見られます。そうすると、ホルモン失調が自律神経失調症の原因になり、冷え症や頭痛、気分がイライラしたり、落ちこんだりするなどの症状をひきおこします。
●ストレス
 家庭生活や職場環境など、私たちをとりまく生活環境の中で、心理的なストレスによる心因性自律神経失調症も、かなり多く見られます。
 家庭内では、嫁と姑のあつれき、夫婦間の問題、親と子の関係、子どもの進学や経済的な問題など、現代社会がつくり出すストレスはどの家庭にもあります。職場でも、同僚や上司との間でおこりやすい人間関係の悩み、仕事の失敗やつまずき、労働条件、その他の不満など、さまざまなストレスがあります。そして、非常に強いストレスやそれが長く続くような場合に、ストレスに対して調整ができなくなり、いろいろな精神症状や身体症状を伴う自律神経失調症を、ひきおこします。
●まじめで几帳面な人
 自律神経失調症になりやすいかそうでないかは、性格や体質によってずいぶん個人差があります。かかりやすい人の性格や体質は、まず神経質で、ふつうの人がなにげなく聞き流すようなことでも、それにこだわって、強くつきつめて考えこんだり、驚いたりしやすい人です。また、まじめで几帳面、責任感が強く、完ペきに規則どおりにものごとが運ぶことを好み、ルーズでふざけたことが嫌い、思いこみも強いという性格の人もかかりやすいでしょう。こういう人は、ショックやストレスを人一倍強く受けやすく、しかも、緊張や不安、心配が続くので、自律神経のバランスが乱れやすい状態になるのです。

自律神経失調症にならないための10のポイント

自分自身の努力で予防できる
 自律神経失調症は、なかなか治療がむずかしく、長期にわたって悩まされやすい病気です。けがや骨折と違って、どういうふうにしておこつたかという原因をつきとめて考えてみても、性格や体質、人生観、日常生活、環境、人間関係、季節、食事法、習慣、月経状態など、いろいろな要因がからまって、簡単に説明がつかないことが多いのです。
 それでも、ある共通した条件があり、おこり方にもパターンがありますので、この病気の性質やしくみをよく理解したうえで、自分自身の心がけや努力で、かなり予防することができるのです。自律神経失調症にかからないための再確認とアドバイスをまとめておきましょう。
①一歩下がって客観的に判断する習慣を
 私たちは日常生活の中で、ものごとを判断するとき、どうしても主観的になりがちです。主観的に考えて判断しようとせずに、一歩下がって周囲の状況や自分の行動を客観的な目で眺め、分析して見ると、その実態がはっきりとらえられます。健康の問題についても、体の調子が悪くなった原因や経過を客観的に冷静に分析できれば、自然にその対応も正確につかめるはずです。
②自己中他的にならないで人間関係を大切に
 自分の言動が、相手にどう受けとめられ、どのように反映しているか、相手の立場に立って、考える余裕をもつことが、自己中心的にならない第一歩です。夫婦の間でも、親子関係、嫁と姑、職場の同僚や上下の関係、すべてにおいて、自己中心的な考え方から抜け出すことができれば、自然に人間関係はうまく行くようになり、トラブルやストレスから解放されるでしょう。
 最近の子どもたちの生活環境は、学校でも塾通いでも、あまりにもゆとりがなさすぎるのではないでしょうか。自己中心的な人間形成の原因は、このへんにあるように思われます。
③生活のリズムを乱さない
 生活のリズムの乱れは、交感神経と副交感神経のリズムの乱れをひきおこし、自律神経失調症の原因になります。
 仕事の時間と休息の時間、食事や睡眠など、生活のリズムを大きく乱さないことが、健康な生活の基本条件です。寝食を忘れて仕事に没頭することも、ときには必要かもしれませんが、肉体労働でも頭脳労働にしても、限界を超えれば、疲労の蓄積によって健康に影響をもたらすことは当然です。睡眠不足が続くと、注意力は散漫になり、仕事の能率は低下して、間違いや失敗が多くなることは、誰でも経験があるでしょう。
④太りすぎとやせすぎに気をつける
 男性にとっても肥満はいろいろな病気の原因にもなりますが、女性の肥満とやせすぎはホルモンの働きを狂わせ、排卵障害や無月経、あるいは不正子宮出血などをひきおこします。内分泌の障害は、自律神経中枢にも影響して失調をおこす原因になるのです。(身長-100)×0.9をほぼ標準体重と考えて、食べすぎないようにすること、無理なダイエットでやせすぎないことが必要です。
⑤打ち明け話のできる人をつくっておく
 家庭や職場の環境の中でおこつたいろいろなトラブルで、自分一人が悶々と悩むことは大変なストレスになります。ぐちをこぽすという言葉もありますが、家族や親戚、あるいは親しい友人の中に、なんでもざつくばらんに打ち明けて話せる人をつくつておけば、このストレスはかなり解消できるでしょう。医師が患者の訴えを聞く面接の中に、バリソト方式といって、上手な聞き手になる傾聴という方法がありますが、これも、心困を確かめ治療する有力な手段になっています
⑥心身をリラツクスさせる
 自律神経失調に有効とされる自律訓練法、気功、ヨーガ、座禅などに共通しているのは、呼吸法と筋肉の弛緩、雑念をとり去ることによって、精神的にリラックスすることです。ふだんから心身を上手にリラックスさせることを身につけていれば、自律神経機能はよく調整されて、失調をおこさずにすむでしょう。
 たとえば、就職の面接や、上司に呼びつけられたとか、試験場に入る前など、精神的に緊張するようなときに、大きな深呼吸を三回くらい繰り返すと、緊張から解放されて心身ともにリラックスする感じがわかります。不安や緊張が続くと、全身の筋肉も緊張し、疲労を感じるものです。
⑦レクリエーションを心がける
 レクリエーションといえば、すぐ旅行やピクニックなどを考えられるかもしれませんが、休日に無理をして出かけて疲れてしまうようでは、レクリエーションの意味も半減してしまいます。近くに釣り糸を垂れるような海岸、川や池などがあれば、釣りを楽しんでもよいでしょう。浮きの動きに集中しているときは、雑事も忘れてしまうことができます。公園の散歩、草花の手入れ、ペットの世話や運動など、私たちの身のまわりには、気分の転換をはかれるものは色々とあるものです。こうした楽しみも、なるべく、夫婦、家族間で共有することで、家族間の心の絆が深くなり、家庭生活を豊かにすることにつながります。
⑧趣味を持つ
 中高年になっても新しいことに好奇心を持つことは、精神的に老けこまない大切なポイントだといえます。以前から持っていた趣味をいっそう深めるのもよいでしょうし、好奇心を持ってなにか新しい趣味を見つけ、日常生活の中で、少しでも趣味に時間を割くことはストレス解消に役立ちます。
⑨自分自身をコントロールする努力を
 仕事でも家庭生活の中など、何をするときでも、自分の性格や能力をよく知って、心身とも
に自分自身をコントロールできる努力をしましょう。
 例えば、スポーツやトレーニングによる健康法などは、自分の体力の限界を正確に評価し、運動の種類や量を自分の性格や能力に見合うようにコントロールすることができなければ、かえって健康を損ねることになります。
⑩ストレスを克服する
 環境から加わるさまざまなストレスに対して、それに影響されるだけという消極的な態度だと、心因性の病気や自律神経失調症をつくり出すことになります。私たちは職場や家庭のいろいろなストレスを、なんとかうまく処理しながら、日常の生活をいとなんいるわけです。ひどいストレスの場合は、解決に時間がかかることもありますが、あせらず気長に処理し、克服していきましょう。



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