動脈硬化による大動脈弁の病気

 突然死を起こす病気の一つに心臓弁膜症があります。四つの心臓の弁のうち、大動脈と左室との間にある大動脈弁の病変で、特に狭くなる狭窄症の場合に突然死を起こします。しかし、心臓弁膜症は、動脈硬化によっても起こります。
 急速に高齢化社会に突入したわが国では、動脈硬化による大動脈弁の変化が問題視されています。それは退行変性、石灰沈着、硬化と呼ばれる変化です。それらは「大動脈弁狭窄症」という恐ろしい病気を発症させるからです。
 では、なぜ大動脈弁狭窄症が恐ろしいのでしょう。大動脈弁は心臓の出口にあり、大動脈からの血液の逆流を防いでいます。この弁が動脈硬化のため石灰化し、萎縮してしまうと、心臓からの出口は小さくなり、左室に大変な圧力の負担をかけることになります。結果として、大動脈圧は低くなり、左室圧が高くなって、左室は肥大への道を歩むことになります。病状はきわめてゆっくりと進行し、最後には左心不全に陥ります。
 大動脈弁狭窄症では、無症状の時期が比較的長く続きます。したがって、症状が出現するようになったときは、弁の開口面積は1平方センチメートル以下になっているのです。(通常は2.6~3.5センチメートル)。
 発症する症状の第一が狭心症です。重症な大動脈弁狭窄症では、冠血流量がほぼ固定化し、運動時の血流増加に対応できなくなって、心筋虚血を起こします。
 第二には、めまいや失神です。大動脈の弁口が狭いために、運動に対して十分な血液を全身に送ることができず、また末梢血管も運動とともに拡張するので、血圧の低下をきたします。このことが、脳への循環血液量を減らす結果となり、症状を発症するのです。失神発作を認めるようになると、予後は3~4年といわれています。
 第三には、呼吸困難です。最初は運動時の疲労感ではじまりますが、やがて息切れを感ずることが多くなります。さらに進行すると、夜間の呼吸困難、起座呼吸となり、鬱血性心不全の病態を呈します。
 第四は、突然死です。大動脈弁狭窄症では、その頻度は高く、5~15%との報告があります。その原因として、不整脈、冠状動脈の血栓による閉塞、弁病変の冠状動脈への進展、頸動脈洞反射の亢進による心停止などがあげられます。
 大動脈弁狭窄症は、外科的に治療する病気です。正常では、大動脈の上の血圧と左室の内庄は等しい値を示します。軽症状のときでも、不整脈による突然死や、狭心症の誘発を予防する目的で、過度な運動は避けなければなりません。症状がありながら何らかの理由で内科治療のみで経過をみた症例の死亡率は、1年後の死亡率26%、2年後では48%、3年後となると57%と増え、その数値の高さに驚かされます。
 大動脈弁狭窄症では、突然死を未然に防ぐために、手術時期を逸することのないよう、十分な経過観察が必要なのです。



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