今どきの「ガン告知」事情

前もって家庭で話したい「ガン告知」

 日本人の死因の第一位の座を占めるのは、依然として悪性新生物です。男性の場合は、肺癌、胃癌、肝癌が一位、二位、三位の頻度で多く、女性の場合は、胃癌、大腸癌、肺癌の順に続いています。したがって、私たちは癌で死亡する可能性が高いのです。
 最近、「ガン告知」について考えさせられる二つの事例に遭遇したので紹介しましょう。
 第一例は、58歳の社長夫人のFさんです。1週間くらい前から、突然、食事のときに胸に異和感を自覚するようになり、当院にて上部消化管造形検査をしたところ、かなり進行した食道癌が発見されたのです。伺ってみると、生来健康で、この年齢になるまで胃の検査は一度も受けたことがなかったとのこと。
 さて、この病名をご主人には告げたものの当の本人にはどう伝えるかが問題です。元気なときに、「おれがガンになったらどうする?病名を告知してもらったほうがよいか。おまえならどうしてほしい?」 などと日常家庭内でこの問題を話し合ってほしいのです。万一のときに本人の精神的ダメージも少ないし、医療の導入もスムーズに行えるからです。

余命を知るか、知らずに過ごすか

 第二のケースは、ある出版社社長のG氏です。風邪をひいて咳がでるので、土日診療をやっている近医を訪ねたところ、「これは主治医に診てもらって下さい」と言われたとのことで、月曜日の朝一番で当院に見えました。診察所見上、あまり問題となるところもなく、ヘリカルCTで精密検査を行うことにしました。CT画面上に現れた画像を見た私は、一瞬わが眼を疑ったほどでした。
 というのも、G氏は心臓病を患っており、時々拝見していたからです。医学関係の出版を手掛けているG氏にも、病名は言わずともガンであることを既に察知していました。
 そこで、この事実をG氏の家族に話さなければならないのですが、困ったことが起こつていたのです。G氏の奥様は老年期うつ病の回復期にあり、この告知は病状を再び悪化させる引き金になるからです。結局、手術々前検査となり、その結果を執刀医から知らせていただくことにしたのです。
 昭和医大第一内科の中島宏昭医師の報告では、自分が癌であった場合、告知を希望する人は60.3%、しない人11%、家族が癌になった場合、本人に知らせる人は18.3%、知らせない人が28.7%です。人々は、「知る権利」とともに「知りたくないことを知らされない権利」もあるのです。
 癌が発見されれば、ある程度余命も確定します。その余命の長さを知るのも、知らずに過ごすのも個人の哲学の問題でしょう。





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