食事バランスの崩れから味覚障害

◆鋭敏な味覚は必要か?

 本来の味覚は、摂取すべきものの選別の意味で必要なものでありました。しかし文明が発達すると、塩、砂糖などを使い、煮る、焼く、炒める、蒸すといった調理をし、味を楽しむという感覚を持つに至りました。ヒト以外の動物では、味付けし、あるいは温めたり冷やしたりして食を楽しむことはありません。正常の味覚を持っていないと、味付けが濃くなり、塩分や糖分を摂り過ぎます。すなわち、敏感な味覚を持っていないと糖分や塩分を摂り過ぎて、糖尿病や高血庄になったりする可能性があります。糖尿病患者では、明らかに味覚障害が起こり、味付けは濃くなる傾向があり、悪循環となります。健康には正常な味覚が必要なのです。
正常な味覚維持

◆正常な味覚維持には何が必要か?

 正常な味覚の維持には、特に舌及び口腔や咽頭内に存在する味蕾(みらい‥味の受容器)を正常な状態に保つことが重要です。それには、三大栄養素の摂取はもちろんのこと、微量金属(元素)、ビタミンの十分な摂取が必要です。現在までに、鉄、ビタミンB12、亜鉛などが欠乏すると味覚障害が起きることが分かっています。微量元素やビタミンは、さまざまな代謝に必要な酵素、ホルモンなどが円滑に働くために重要な役割を演じます。
味蕾に存在する味細胞は、短期間のうちに死滅・新生を繰り返している新陳代謝の激しい細胞です。こうした細胞では細胞の新生に必要なたんばく質の合成が盛んです。たんばく質の合成には、亜鉛を含む酵素が重要な働きをしているので、亜鉛が不足すとたんばく質の合成ができなくなります。したがって、亜鉛が欠乏すると、味細胞のようなたんばく質合成の盛んな細胞がまず最初に影響を受けます。このことが、亜鉛欠乏による味覚障害の起こる原因と考えられています。

◆偏食から味覚障害に

偏食から味覚障害に 共働きや外食産業の普及などで、加工食品への依存度が増大しています。加工食品や清涼飲料水のほとんどに使われている食品添加物の 「ポリリン酸」や「フィチン酸」には、亜鉛の吸収を妨げたり、排せつを促進したりする作用があります。このためコンビニ食など加工食品に頼る若者には、亜鉛不足の人が多いといわれています。無理なデイエットから、十分なビタミンや微量元素が摂取できずに味覚障害を生じた例もあります。

◆何でも過信は禁物

 日本人は、各年齢層で、カルシウム不足の傾向があります。そうした情報を得ると、人によってはカルシウム製剤を多量に摂取します。多量のカルシウム摂取は、鉄や亜鉛吸収を妨げます。
 味覚障害の患者でサプリメント(微量元素、ビタミンなどの栄養素を錠剤にした食品)を十分に摂っている人の血中ビタミン濃度を測定したところ、正常値以下だった例を最近経験しました。以上から、偏った情報や人工食品に頼り過ぎると、栄養バランスを崩し、味覚障害などを起こす可能性があると考えられます。

◆温故知新 (今こそおふくろの味の復活を)

 亜鉛は、肉類にも多く含まれます。そのため、亜鉛を多量に補給するという意味では、肉食はよいのですが、高コレステロール血症などを起こす可能性があります。また、極端な菜食主義を続けると、亜鉛吸収が妨げられ、味覚障害となる可能性があります。食生活もバテンスが大事です。
国民生活センター「くらしの豆知識2001」より





inserted by FC2 system