まちがった食生活からくる病気

まちがった食生活からくる病気食生活からの病気といっても、その種類は多く、要因もさまざまです。
 健康を維持するには体が必要とする量にみあうエネルギー量を摂取する必要があります。つまり、消費エネルギーと摂取エネルギーのバランスがとれなくてはなりません。
 消費エネルギー量に比べて、摂取エネルギーが多すぎれば、エネルギーの過剰摂取、すなわち過食ということになり、逆の場合はエネルギーの不足、すなわち欠食ということになります。肥満ややせなど、エネルギー調整の必要がある場合、エネルギーのバランスは崩れていることになり、この崩れからいろいろな病気がでてくるのです。
 例えば、エネルギーの摂りすぎから生じる肥満は、高脂血症・高血圧・糖尿病・痛風・脂肪肝・関節痛を引きおこし、さらに高脂血症・高血圧・糖尿病・痛風は動脈硬化の誘因となります。また、動脈硬化は狭心症・心筋梗塞・脳梗塞・腎臓病などの要因となります。単なる食べ過ぎから、いろいろな病気がおこつてくることがわかります。
まちがった食生活からくる病気 逆に食欲不振や意識的な減食により極端なエネルギー不足がおこると、体脂肪や体たんばく質が分解し、やせ・貧血・無月経・脱毛・体力減退など低栄養状態が生じます。
 健康の維持・増進には、まず、過食も欠食もしないことが大切です。摂取エネルギー量が適正か否かは、厳密には食事の調査やカロリー計算をしなければわからないのですが、毎日朝食前に体重を測定し記録することでも調べることができます。体重が増加傾向にあれば食べ過ぎであり、減少傾向にあればエネルギー不足であることになります。
欧米型成人病を招く高脂質食
 戦後の日本は副食に高たんばく質・高脂質の欧米食を積極的に導入することにより、栄養状態を改善してきました。しかし現在、高脂質食品の拝取量は上限にあると考えられており、これ以上高脂質食にすると、欧米人と同じように狭心症や心筋梗塞のような動脈硬化性の心臓病に悩まされることになります。
高たんばく質・高脂質の欧米食 脂質には、肉・牛乳・乳製品・卵などの動物性脂肪と、調理用油・種実類などの植物油の二種類があります。脂質は、大変効率の良いエネルギー源ですが、摂りすぎるとさまざまな障害が起きてきます。
 特に動物性脂肪には、飽和脂肪酸やコレステロールなどが含まれ、これらは血液中のコレステロールを上昇させ、高脂血症を引きおこします。
 また、肥満・糖尿病の誘因となります。肥満は高血圧・痛風を引きおこし、さらに高血圧・痛風・高脂血症・糖尿病などが動脈硬化の危険因子になり、動脈硬化は、脳梗塞・心臓病の要因になります。一方、植物油には血中コレステロール低下作用があるうえに、リノール酸のような必須脂肪酸を含むため、とらないといけないのですが、これも摂りすぎると、動物性脂肪とのバランスが崩れてしまいます。
 なお、魚油は動物性脂肪に分類されますが、多価不飽和脂肪酸が多いので、動物性脂肪‥植物柚‥魚油の比率が1‥1‥1くらいの割合にするのが健康に最も良いバランスです。
 脂質が少なすぎると、エネルギー全体の補給がうまくいかず、やせ、虚弱体質、体力減退などが表れ、さらにビタミンA、E、D、Kなど脂溶性ビタミンの吸収も悪くなります。
 脂肪になりやすいのは糖質のうち、甘い糖
 糖質には、ご飯・パン・麺などの主食に多いデンプンと、砂糖・果物・菓子などに多い庶糖・果糖・ブドウ糖などの甘い糖があります。体の中で体脂肪になりやすいのは、甘い糖のほうです。この甘い糖を摂りすぎると、肥満・高脂血症(特に高中性脂肪血症)・脂肪肝を引きおこします。肥満は高血圧・糖尿病・痛風の原因となり、さらに、これらが危険因子となり動脈硬化が伸展し、心臓病・脳梗塞・腎臓病まで引き起こすことになります。一方、糖質が不足した場合は、エネルギー補給に障害がおきたり、ケトン体(脂肪酸から合成される物質)が産生し血液が酸性にかたよってきます。
 食塩の摂りすぎで起こる高血圧
 食塩は塩化ナトリウム(NaCl) といい、ナトリウムと塩素の化合物です。この両方を補給するために食塩をとります。この二つで問題になるのはナトリウムのほうです。もともとナトリウムは多くの食品に自然に含まれているために、不足することはありません。むしろ摂り過ぎによって病気が起こるといえます。食塩の摂り過ぎはナトリウムの過剰摂取となり、高血圧を引き起こし、高血圧は腎臓病・脳出血・脳梗塞、さらに狭心症・心筋梗塞の危険因子になります。
 ビタミン、ミネラルの不足は不定愁訴の原図に
 ビタミン、ミネラルは微量栄養素とも呼ばれ、必要な量は少量なのですが、体の代謝を円滑にしたり、体の構成成分となり重要な働きをします。
 ビタミン剤、ミネラル剤による過剰摂取をしない限り、これらを摂り過ぎることによって起こる病気はほとんどみられません。むしろ、不足するほうが問題になります。
 かつてはビタミンA欠乏による夜盲症、ビタミンB1欠乏による脚気、ビタミンC欠乏による壊血症、ビタミンD欠乏によるくる病、カルシウム欠乏による成長障害、鉄欠乏による貧血などが多くみられました。
 しかし現在では、食品が豊富になり、ビタミン剤やミネラル剤も手軽に手にはいるようになって、このような顕著な欠乏症はほとんどみられなくなりました。
 しかし、まったく心配がなくなったわけではありません。最近、このような栄養素の潜在性欠乏状態が存在することが分かってきたからです。潜在性欠乏状態とは、明らかな欠乏症状はみられないものの、体内の貯蔵量が減少しているために、ストレスや負荷がかかって必要量が増大したときに、いろいろな症状がでてくる状態をいいます。
 たとえば、イライラ、過敏反応、注意散漫、疲労感、何となく集中力がない、仕事への持続力がないなどの訴えが多くなってきます。そこで検査をするのですが、病気が見つからない場合には、不定愁訴といわれます。この主原因が、これらビタミン、ミネラル類の潜在性欠乏状態のためではないかと考えられています。
「どんな食品・栄養を摂るか」だけでなく、「どのように摂るのか」もきわめて重要です。
 食物繊維も欠かせない栄養素
 食物繊維は、人間の消化液では消化されない難消化性の成分です。消化されないので、従来、非栄養素と考えられていたのですが、近年になり種々の生理作用があることが分かり、栄養素の一つと考えられるようになりました。
 たとえば、低エネルギーであるために食事のカサを増やしたり、糖質や脂肪の吸収を遅延させたり、コレステロールの排泄を促進します。また、便通を良くし、肺ガン性物質の作用をやわらげる働きもあります。
 食物繊維が不足すると、肥満・高脂血症・糖尿病・便秘・大腸がんなどの発生率が高くなります。一方で、食物繊維は他の栄養素の吸収を阻害したり、遅延させたりするので、摂り過ぎると栄養状態を悪くします。
 嗜好品は上手に利用したい
 アルコール類、カフェイン飲料、炭酸飲料など嗜好品の消費量は年々増加傾向にあります。食生活が豊かになれば、どうしても嗜好的に満足感が得られる食品の摂取量が多くなります。これらも摂り過ぎるといろいろな病気の誘因となります。
 たとえばアルコールを接り過ぎると、肥満・肝臓病・心臓病・脳卒中・膵臓病・糖尿病・高血圧・痛風などをおこしやすくなります。一方で、酒は 「百薬の長」ともいわれます。アルコールは消化液の分泌を亢進するので、食欲を増進し、さらに、脳、神経系を麻痺させてくれるのでストレス解消に役立ちます。しかし、これはあくまでも適量の場合です。一日に、日本酒で一~二合、ビールで一~二本、ウイスキーで水割一~二杯を目安にし、これ以上飲んだ場合、翌日は必ずアルコールゼロの日にします。
 カフェインは胃液の分泌を亢進し、脳、神経系を緊張させる働きがあります。うまく使えば、眠気を覚まし、思考力を助長してくれるのです。ところが、これも飲み過ぎると、胃炎・腸炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・動脈硬化・心臓病・膵臓がんなどの誘因になったり、病状を悪化させることがわかっています。
 炭酸飲料、ジュース、スポーツドリンクなどには、砂糖や果糖などの糖質が多く含まれています。スポーツ、発熱、発汗などで、体内の水分や糖質、さらにミネラルが不足している際に利用するのはよい方法です。しかし、栄養分の不足もないのにこれらを飲み過ぎると、糖質の過剰接取となり、肥満・高血症などの誘因となります。
 不規則な食べ方は、徐々に健康を損ないます。
        なるべく規則的な食べ方をするよう心がけましょう。

 食べ方の不規則性も健康を損なう
不規則な食べ方 体内での各種代謝には一定のリズムがあります。体温、心拍数、各種ホルモン値は、一日の中である程度変化しますが、その変化には規則性があります。規則正しい食生活が健康によいのは、その環境が、生体のもつリズムに合っているからです。したがって、昼夜が逆転している看護婦、ドライバー、建設業などの交替勤務者は、心身の不調を訴える例が多くみられます。
 生活の不規則性は、食事の回数や時刻にも変化をもたらします。欠食し、食事回数が減少するほど、体脂肪の合成が亢進し、太りやすくなること、さらに、夕食にまとめ食いをしたりするほか、夕食が遅れたり、夕食をとるなど夜型食事になるほど、太りやすくなることもわかっています。
 食べるスピードも健康に関与します。食事時間が短かく、よく噛んで食べない人ほど、食べ過ぎて太りやすくなるといわれています。また、消化が悪くなり胃腸への負担も多くなります。一方、欠食は貧血のような低栄養疾患を引き起こすこともあります。国民栄養調査成績によると、鉄の摂取量は、欠食の割合が多くなるほど低下することがわかっています。
 規則正しく、ゆっくりよく噛んで食べることは、食べ過ぎによっておこる病気を予防するほか、その病気を治療するにあたっても大切となります。
栄養の摂取という点では、外食は家庭食に比べ、劣つてしまう傾向にあります。
 外食、個食の増加は栄養のバランスも悪くする
外食、個食 厚生省による国民栄養調査成績によると、外食率は、男女の別を問わず、増減の波はあるものの徐々に増加する傾向にあり、昭和四〇年には11.3%だった外食率は平成元年には18.7%にまでなつています。また、各年齢階級別にみる
と、特に二〇歳代の男女の外食率は、30%を超えています。
 重要なことは、外食にすると栄養素の摂取状況が家庭食に比べて劣る傾向があることです。鉄とカルシウムの摂取量と所要量を比較してみると、充足率が低いグループほど外食の割合が高くなっています。
 また、家族全体で食べる頻度も少なくなり、いわゆる「個食」化の傾向がみられます。3~15歳までの子供の調査によると、朝食を両親といっしょに食べている子供 (全体の30.3%)や母親といっしょに食べている子供 (全体の29.9%)に比べ、子供だけで食べる子供たちは、栄養のバランスが悪い傾向がみられます。
 さらに、単独世帯(一人暮らし) の食品摂取状況にも、かなり偏りがみられます。いも類で28.7%、その他の野菜や豆類及び動物性食品で10%以上も全世帯に比べ下回っている一方、調味嗜好飲料は35.3%も多いなど、かなりアンバランスな摂取となつています。
 便利で豊かな食生活は、「いつでも」「どこでも」「何でも」 「好きなだけ」食べられることを可能にしましたが、栄養のアンバランスという新たな問題を起こす結果ともなつてきています。
★「健康づくりのための食生活指針」★
成人病予防のための食生活指針
①いろいろ食べて成人病予防  ・主食、主菜、副菜もそろえ、目標は一日30食品
 ・いろいろ食べても、食べ過ぎないように
②日常生活は食事と運動のバランスで  ・食事はいつも腹八分目
 ・運動十分で食事を楽しもう
③減塩で高血圧と胃ガン予防  ・塩からい食品を避け、食塩摂取は一日10クラム以下
 ・調理の工夫で、無理なく減塩
④脂肪を減らして心臓病予防  ・脂肪とコレステロール摂取を控えめに
 ・動物性脂肪、植物油、魚油をバランス良く
⑤生野菜、緑黄色野菜でガン予防  ・生野菜、緑黄色野菜を毎日の食卓に
⑥食物繊維で便秘・大腸がんを予防  ・野菜、海藻をたっぶりと
⑦カルシウムを十分摂って丈夫な骨作り  ・骨粗鬆症の予防は青壮年期から
 ・カルシウムに富む牛乳、小魚、海藻を
⑧甘い物は程々に  ・糖分を控えて肥満を予防
⑨禁煙、節酒で健康長寿  ・禁煙は百益あっても一害なし
 ・百薬の長アルコールも飲み万次第
女性(母性を含む)のための食生活指針
①食生活は健康と美のみなもと  ・上手に食べて体の内から美しく
 ・無茶な減量、貧血のもと
 ・豊富な野菜で便秘を予防
②新しい生命と母に良い栄養  ・しっかり食べて、一人二役
 ・日常の仕事、買物、良い運動
 ・酒とたばこの害から胎児を守ろう
③次の世代に賢い食生活を  ・うす味のおいしさを、愛児の舌にすり込もう
 ・自然な生活リズムを幼いときから
 ・良く噛んで、良く味わう習慣を
④食事に愛とふれ合いを  ・買ってきた加工品にも手のぬくもりを
 ・朝食はみんなの努力で勢揃い
 ・食卓は「いただきます」で始まる今日の出来事報告会
⑤家族の食卓、主婦はドライバー  ・食卓で、家族の顔見て健康管理
 ・栄養のバランスは、主婦のメニューで安全運転
 ・調理自慢、味と見ばえに安全チェック
⑥働く女性は正しい食事で元気はつらつ  ・体が資本、食で健康投資
 ・外食は新しい料理を知る良い機会
 ・食事づくりに趣味を見つけてストレス解消
⑦「伝統」と「創造」で新しい食文化を  ・「伝統」に「創造」を加えて、我が家の食文化
 ・新しい生活の知恵で環境の変化に適応
 ・食文化、あなたとわたしの積み重ね
厚生省は、昭和60年、「健康づくりのための食生活指針」を提唱しました。そしてその後の食生活や栄養状態の変化、新しい研究成果を取り入れ、平成2年に新たに「対象特性別食生活指針」を公表し、年代や性別など、よりわかりやすい目標を掲げました。





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