薬の基礎知識

薬が効くということ

薬と自然治癒力

[異常な症状は体の防衛反応]
 私たちは病気のときや体調が崩れたときに薬をのみますが、そもそも病気を治すのは自分自身の体であり、私たちはそれを抵抗力とか自然治癒力と呼んでいます。薬はそのお手伝いをするものなのです。
 かぜをひけば熱が出ます。熱が出るのは、そのほうが体にとって有利なことがあるからです。感染症によって熱が出る場合、例えば肺炎球菌やウイルスなど、感染症の原因になる微生物は、増殖しやすい温度が決まっているので、体温が上昇すれば、微生物の増殖が妨げらます。また、体温が上がると、体の中では病気に対する抗体が早くつくられるのです。
 こうなると、熱があるからというだけで解熱剤をのむのは考えものかもしれません。
体の自然治癒力を妨げることがあるからです。もっとも、40度以上の高熱が続くと脳障害をきたし、死を招くことさえありますから、この場合にはまず熱を下げることが優先されます。錠剤
[対症療法にも効果がある]
 残念ながら、いまのところ風邪を直接治す薬はありません。数多くのカゼ薬は、いずれも風邪の症状をおさえるものです。だからといって、カゼ薬は役にたたないとはいえません。
 咳がひどい場合、咳1回につき2キロカロリーもエネルギーを消費するほどで、夜も眠れずに体力を消耗させます。肝心の体力が衰えては、カプセル.gif風邪をこじらせてしまいます。咳止めは単に咳の症状をおさえるだけでなく、体力を回復し、自然治癒カのはたらきを促します。
 とりあえず症状をおさえることを対症療法といい、根本的な治療ではなくても、体の自然治癒カを助ける効果はあるのです。

薬の働き方

[成分が血液に入り作用する]
 薬を飲むと、食道から胃を通って十二指腸、小腸へと運ばれていきます。薬は主に小腸の上部で吸収されて血液に入り、全身をめぐります。全身をめぐる間に、薬は微生物を攻撃して殺したり、細胞内に入り込んで作用したりします。
[抗生物質]
抗生物質の効き方は薬の中でいちばん簡単で、病気を起こしている病原菌の発育を阻止し、破壊する薬です。
[ビタミン剤・ホルモン剤]
 ビタミンは食物でとり、ホルモンは体の中でつくられるという違いはありますが、不足すれば体調を崩して病気につながります。そこで、ビタミン剤やホルモン剤によって不足を補うことになります。ビタミン剤は健康食品や美容効果というイメージが多いようですが、欠乏症の人にとっては不可欠な薬なのです。薬の成分
[体の細胞に作用する薬]
 現在使用されている薬のうち、一番多いのが、体の細胞にあるカギ穴に結合することで薬理作用を発揮するものです。このカギ穴はおもに細胞の外膜上に点在して、特定の化学構造を持つ薬と結合しても他の薬とは結合しません。薬ごとに結合するカギ穴の場所が違います。
 もう一つ、ホルモンが結合するための細胞のカギ穴に先回りして結合し、ふたをしてしまうことで症状をおさえる薬もあります。
薬の副作用

薬には副作用がある

[副作用の3つのポイント]
 薬の副作用というと、あってはならないと考えている人が多いと思われますが、つきつめていくと副作用がまったくない薬は存在しないと考えたほ、うがよいでしょう。
 副作用が出た場合、その原因は
①薬そのもの
②薬の使い方
③患者の体
の3つに分けられます。
[副作用を防止する心得]
 副作用の症状で多いのは、皮膚の発疹などのアレルギー反応や胃や腸の症状です。このような副作用が出るのは、前回服用するのを忘れたので次に2回分を一度に服用するといったように、服用方法が原因だったり、病気なのに仕事で体に負担をかけたために、薬に対して過剰に反応していることが考えられます。
副作用を防止するポイントは、患者自身にあるということを心得ておきましょう。
[薬ののみ合わせにも注意]
 複数の薬をのんでいる場合、薬どうしが影響しあって副作用があらわれることもあります。
一つの病院で処方してもらった場合なら、心配無いのですが、二つ以上の病院をかけもちで通っていたり、病院の薬と市販の薬を服用するようなときは、事前に医師に相談しましょう。胃腸薬
[副作用には個人差がある]
 薬に対する反応は個人差があります。例えば、遺伝的な原因で肝臓や腎臓の代謝酵素などの欠乏症があり、働きが充分でないと、薬の分解や排泄がおとろえるので、通常の分量でも過剰にのみすぎたときと同じように反応してしまいます。そのため副作用があらわれやすくなります。アレルギー反応を起こしやすい特異体質の人もいます。自分の体質や体調を知っておくことが大切です。
[まず医師に相談する
 薬をのんでいて副作用かと疑われるような症状が出たら、病院の薬の場合であれば、まず処方してもらった医師に相談してください。自分かってな判断で薬をやめるのは禁物です。薬の種類によっては、急に使用を中止すると症状が悪化したり、死に結びつくことさえあります。自分の判断だけで薬をやめたり、量を調節することは危険です。一方、市販の大衆薬をのんでいて副作用が起こつた場合は、使用を中止したほうがいいでしょう。大衆薬は、比較的軽い病気の人を対象にしていますから、薬をやめても差し支えはないはずです。それでも市販の薬を必要とするような病状であれば、一度医師に相談してみることが必要です。

気にしなくてもよい副作用

[副作用とは呼べない副作用]
 ときには副作用に神経質になりすぎて、薬をのんだら尿の色が赤くなったと慌てる人がいます。たいていは薬が排泄されるときの色で、血圧を下げるメチルドパは赤色ないし黒色に、鎮痛解熱剤のインドメタシンは緑色といったように尿が変色します。ビタミン剤
 また、ビタミンB1剤をのむと吐く息や尿がヌカのにおいをすることがありますが、これもまた薬のにおいなので心配ありません。
 抗ヒスタミン剤や糖尿病の薬の中には、ねむけを催すものがありますから、車の運転や機の繰作などを避けなくてはなりませんが、それ以上の心配はありません。これらは医師も承知の上で、事前に注意を与えることが多く、とくに副作用には当たらないものです。
[副作用を承知の薬もある]
 医師は、薬には副作用があることを知っています。そして症状にあわせて、なるべく副作が少ない薬を選ぶことに気を使っています。自分がのんでいる薬が心配なら、きちんとした説明を受けておくことです。副作用が大きい場合は、他の薬に変えたり、その副作用をおさえる薬を処方してくれるでしょう。
 しかし、ときには副作用を承知の上で薬を使用しなければならない場合もあります。薬の効用が副作用に比べて著しく高く、ほかに適切な治療法がない場合などです。極端な例では、抗ガン剤を使って頭髪が抜けても、ガンの増殖をくい止めるほうを優先するわけです。もちろん、そのような副作用は事前に知らせてくれるでしょう。
[市販の薬でも副作用がある]
 市販の大衆薬にも、人によって副作用があらわれることがあります。とくに発疹やかゆみなどが出るアレルギー体質の人は薬に対して過敏な反応を示すことがあるので要注意です。胃腸薬で吐き気がするといった原因不明の症状が出た場合も、病気の原因が隠されていることがありますから、薬を中断して、医師の診断を受けることが必要です。
[漢方薬にも副作用がある]
「漢方薬には副作用がない」と思っている人がいますが、それは間違いです。たとえば、せきやのどに甘草(かんぞう)という漢方薬がありますが、その主成分のグリチルリチンは高血圧やむくみの原因になることが知られています。漢方薬を服用していて、副作用と思われる症状が出た場合には、そのままつづけていると、悪化することもあるので医師などに相談しましょう。軟膏
[長期服用は心配]
 市販の薬は、かぜ薬や胃腸薬のように一時的に症状をとるものがほとんどで、長期にわたって連続して服用すべきではありません。長期の使用によって、肝臓や腎臓への影響も考えられますから、数日間服用しても効かなかったら、使用を中止して、薬剤師さんに相談するとよいでしょう。
医師からもらう薬と市販薬

薬の種類と注意

[対症療法]
 薬を使う目的には、不快な症状をとりあえず軽くする対症療法と、病気の原因となるものを取り除く原因療法との2つがあります。このうち、対症療法では、病院や医院で処方する医療用と、薬局や薬店で買えふ市販薬とでは大きな違いはありません。市販薬も症状にあわせて調合されているからです。
 でも、医師が診断して処方する薬は、現在の症状に対して集中的に効果があげられるので、即効性があります。市販薬の場合は、成分の上限が規定されているので、集中的な効果を期待しにくいのです。市販のかぜ薬をのんでも高熱や鼻みずが止まらないのに、病院の薬でピタリとおさまった、という例は少なくありません。
[原因療法]
 抗生物質やサルフア剤など、病気の原因を取り除く薬は、医師の処方がないと買えないものがあります。原因療法は、病気を診断して原因をさぐることが前提だからです。市販薬の中で、原因療法に当たる薬は限られています。売る薬店にも、買う患者にも病気の原因を調べる手だてがないからです。
 例えば、市販されている水虫の薬の主成分は抗菌剤であり、原因療法の薬です。なかには、医師が使う薬と同じ成分や濃度のものもあります。しかし、水虫だと思って市販薬を使っていても、実は湿疹だったという場合、よけい症状をこじらせてしまいます。やはり原因療法は、医師の診断が前提と考えるべきでしょう。薬の流通.gif
[市販薬は情報が多い]
 流通や情報提供の面から考えてみると、医師の処方する薬と市販薬には違いがあります。市販薬は、「製薬会社」→「問屋」→「薬店・薬局」→「患者」と流れるので、薬のパッケージの中には、成分と作用、効能、使用法、使用上の注意などの「効能書き」が入っています。それにより薬に対しての詳しい情報がわかります。また、市販薬にはCMなどで知名度の高いものも多く、不安を抱く人は少ないようです。
[医師の処方する薬の不安]
一方、医師の処方する薬は、「製薬会社」→「問屋」→「病院薬局(医院薬局)」→「患者」と
いう流れをたどります。この場合は効能書きや使用上の注意といった薬に関する情報の多くは、医師や病院薬局で止まってしまい、実際に服用する患者には提供されません。医師によっては丁寧に説明をしてくれる人もいますが、それだけの余裕がない場合が多く、もらった薬に対しての情報が少なくなります。そうなると、薬に対しての不安が生まれることがあると思いますが、処方された薬剤について疑問や説明が必要と思ったら、そのことを医師に伝えて、きちんと説明をしてもらいましょう。薬の服用を確実にして、治療効果を上げることにもなるからです。
[勝手な薬の服用は危険]
 医師に処方してもらった薬が多すぎるので飲み残したり、症状がよくなつたので勝手に中止したり、逆に症状がよくならないので2回分を1度にのむ、というようなのみかたをすると、薬の効果が発揮できず、危険さえあります。薬の量を指示された以上にのめば副作用の危険があり、逆に量を減らしたり急にやめたりすると症状が悪化するケースもあります。
 もし、薬を2週間分もらったけど、病状に変化があったという場合は、診察予定日まで待たずに医師の診断を受けて、必要な指示を受けましょう。自分の判断だけで薬をやめたりしないようにして下さい。
[薬の剤形をかえてはいけない]
 服薬に際しては指示された分量、服用時間を必ず守りましょう。また、カプセルから粉末を取り出したり、錠剤をくずしてのんだりしてはいけません。錠剤やカプセルは、その薬が体内で溶ける時間を考えてつくられています。もしも、そのままの剤形ではのみにくいという場合は、医師に相談しましょう。
[薬はもらい置きできない]
 病院に行くたびに待たされるし、いつも同じ薬をもらうので、どうせなら一度にもっと薬を渡してくれればいいのに、と思っている人は多いと思いますが、保険診療での投薬は通常14日までを限度とし、一部の薬品では30日または90日までと決められています。外用薬は通常5日まで、一部の薬は14日または30日までです。これは、患者の経過をチェックするための最長間隔なのです。

薬を買うときの心掛け

[市販薬は自己判断で選ぶもの]
 飲み過ぎて胃がむかつく、かぜ気味で頭が痛い、という程度なら病院で診察を受けずに、市販薬ですませる人が多いでしょう。この場合は、不快な症状の原因が胃炎やかぜだとわかっているので、薬を選ぶのも苦労しません。
 しかし、お腹が痛い時、痛みめの薬としてアスピリンを買ってのんた場合、症状がひどくなる危険があります。アスピリンは頭痛や歯痛には効きますが、胃腸など内臓の痛みには効果がないばかりか、胃かいようや十二指腸かいようを悪化させることもあるのです。
 この場合、症状を悪化させる薬を売ったといって、薬局の人を責めることはできません。薬局・薬店では、客に対してあれこれ質問して医師のように診断することが禁じられています。市販薬は自分の責任と判断で選びましょう。
[適切な薬選びのヒント]
 もっとも、薬剤師のいるような薬局なら、薬選びの相談にのってくれます。胃が痛いのなら、その症状を具体的に伝えれば、適切な薬をすすめてくれるでしょう。薬を飲む前に効能書きに必ず目を通して、自分の症状が薬の適応症に入っているか、使用上の注意に触れていないかを確かめることも必要です。
 また、家庭医学書に目を通して、自分の症状や病気の原因について知ることも大切です。薬を買うときは自分の症状と原因について知っておく必要があります。症状の原因がはっきりわからないときは、医師の診断を受けましょう。


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