健康増進法

 健康があなたの責務になったのを知っていますか。五月施行の健康増進法。健康保険法改正の陰に隠れて目立たず、ほとんど知られていないようだが、頭をかしげる点がある。
 国民の健康を増進させるという目的(第一条)は結構。問題は第二条である。「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない」-法律でもって健康を「国民の責務」にしているのだ。
 病気がちの人などが「責務を果たしていない」と非難されてはたまらない。憲法二十五条は、国民は健康で文化的な最低限の生活を営む権利を保障している。この権利が増進法では責務にすり替えられた。憲法に反するのでは?
 二〇〇〇年に始まった十年計画「健康日本21」を法的に裏付けたのが増進法であるが、その計画の数値目標が何とも細かい。「児童のフッ化物配合歯磨剤の使用率を90%以上に」 「成人の一日当たりの野菜の平均摂取量を三五〇㌘以上に増やす」。さらに「一日最低一食、きちんとした食事を家族など二人以上で楽しく三十分以上かけてとる者の割合を70%以上に」といった目標まである。これら一つ一つが法的に国民に課せられたことになる。まるで健康の押しつけのよう。
 六十年ほど前に、国民体力法という法律があった。富国強兵の下、国民の体力を政府が管理すると定めたものだ。医療費の増大に歯止めを掛けるのが国の急務である現代。国民体力法に似た健康増進法だが、国家管理や強制では、とても「健やか」な気分にはなれない。





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