ノーベル医学賞ものの冠状動脈造影法

ブラックボックスが解明された!

 心臓病、特に虚血性心疾患の診断と治療が今日みるようなすばらしい成果を得られるようになったのは「冠状動脈造影法」が確立されたお陰といえるでしょう。
 冠状動脈造影は、1958年、米国オハイオ州クリーブランドクリニックのF・M・ソーンズ博士によって初めて行われたものです。当時は、冠状動脈に酸素を含まない高濃度の造影剤を流し込むことは、重篤な不整脈が起こるのではないかという危惧のため行われていませんでした。
 その項、小児科医であったソーンズ博士は、若い患者の大動脈造影を通常通り行ったのですが、驚いたことに右冠状動脈とその末梢の技までが見事に造影されていたのです。このとき、偶然にもカテーテル先端が右冠状動脈の入口部に挿入されていたのです。この間、患者は全く安定した状態で、冠状動脈に造影剤を注入しても何の障害も起こらなかったのです。
 冠状動脈造影法が確立されたことにより、今までブラックボックスであった虚血性心疾患の病態が解明されたのです。冠状動脈の分布はどうなつているのか、どの技のどの部分に、どの程度の狭窄があるのか、など詳細な情報が得られ、まさに解剖学を凌ぐ正確さで100ミクロンの血管まで観察できるようになつたのです。
 その結果、どうして狭心症が起こるのか、またなぜ心筋梗塞へ進展するのかなどが明らかとなり、治療のためにどんな手段が提供できるのかを、検討できるようになりました。
 ソーンズとパートナーシップを組んでいた心臓外科医であるD・エフラー博士は次のように述懐しています。
 「ソーンズのカテーテル法のおかげで、われわれは冠状動脈系という宝石箱のふたを少しあけて中をのぞくことができるようになり、さらに現在の冠状動脈再建術の全盛時代を迎えることができた。冠状動脈疾患が正確に診断できるようになつたのだが、特に重要なのは、患者個人個人の問題点がはっきりとつかめるようになつたことであろう。この視点からみると、冠状動脈造影法はいわば記念碑的な発明と考えていいと思う。」

ソーンズ博士の功績大

 ソーンズ博士の業績は、狭心症や心筋梗塞の診断と治療にキーストーンとなる情報を提供するもので、今でもその価値は変わりません。1979年に、スイスのA・グルンツィヒ博士により始められた「PTCA (冠状動脈形成術)」 は、今日かなりの普及をみています。これはカテーテル先端部に装着した風船で血管の狭くなつている部分を拡げるのですが、どの血管のどの部分をどの程度拡張するべきかを決定するには、やはり冠状動脈造影によらなければなりません。
 最近、新しく登場してきた 「ステント (中空管) 挿入」 にしても、基本的にはPTCAと同様の手接によらなければなりません。
 このように冠状動脈造影法は、虚血性心疾患の診断と治療を可能にした最も重要な検査法であり、多様な検査法が誕生した今日でも重要な位置を占めているのです。その意味において、ソーンズ博士の業績はまさにノーベル医学賞に値する貢献を人類にもたらしたと言っても過言ではないと思います。



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