「心臓は効率のよいポンプ機能」

一日に約8400リットルの血液を送る

 血液の循環系の中で最も圧力の低いのは、毛細血管ではなく、静脈や大静脈、右心房です。毛細血管の圧力は、約30~10ミリメートル水銀柱で、この圧差により毛細血管の中を血液が流れているのです。そして、さらに圧の低い、静脈へと血液は還流します。静脈が横隔膜を通って胸郭内に入ると、圧はさらに下がり、右房へと血液は流れます。ところが血液が右室に入ると様相は一変し、上は20ミリメートル水銀柱、下は5ミリメートル水銀柱の値をもつ拍動波を示します。この上のほうの庄は、肺動脈の収縮期圧となるのです。
 肺毛細血管から左房へも先に述べたと同様の圧力の差によって血液は戻ってきます。左室は、流入した圧の低い血液に圧エネルギーを与えて大動脈系に送り出していますが、その圧の最高値は、右室圧のそれの約6倍にのぼります。大動脈や肺動脈の圧は、心室の拡張期にも収縮期圧の3分の2の値にとどまりますが、これは、それぞれの動脈弁の作用によるものです。
 大循環系では動脈圧は末梢動脈でも圧の低下はきわめて少なく、血圧が著しく降下するのは、細動脈のレベルになってからです。この細動脈は抵抗血管とも呼ばれ毛細血管床への血液の流入を調節する蛇口の役割を果たしているのです。
 このようにして、心臓は一日に約8400リットルもの血液を動脈系に送り出しているのです。心臓から出てゆく血液量と、心臓へ戻ってくる血液量は常に同一であり、血液は全身を隈無く循環し続けていることが、ご理解いただけると思います。
 大循環系および小循環系には、血圧が一定の値をとるように、また生体内の各臓器の要求に応じて十分な血液が供給されるように、循環調節機構が働いています。
 この循環調節機構として、中枢神経系を介するフィードバック制御である神経性調節、副腎髄質から分泌されるカテコラミンなどによる体液性 (ホルモン性)調節、各臓器固有の自動調節などがあります。そのなかでも神経性調節は、循環系の広範囲にわたって速効的な効果を生み出します。
 心臓によって送り出される血液量は、心拍数の変化と一回の拍出量の変化によって調節されています。たとえば、心拍数の調節は、交感神経系により促進的に、副交感神経により抑制的な効果によって行われています。
 運動時の心拍出量の増加は、一回の心拍出量の増加と心拍数の増加によりますが、これは大脳の運動皮質の興奮により視床下部にある指令塔のスイッチが押され、運動時に適切な循環反応となるためです。そして、末梢循環系からのフィードバックにより、心臓はポンプとして効率のよい横能を発揮します。
          健康管理  心臓の病気 より 九段クリニック院長 医学博士 阿部博幸 



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