人獣感染症とその対策

狂犬病は「人獣感染症」の一つ

 英国でパニックとなっている「狂牛病」が、ついに都内の台所を直撃し、輸入牛肉の購入が大幅に落ち込んでいます。1986年に初めて報告された 「狂牛病」は、正式には「牛海綿状脳症」と言い、この病気にかかると文字どおり脳がスポンジ状になり高度の萎縮を起こします。家畜牛がヨタヨタし、旋回するなど異常行動を示し、時に狂ったように興奮し、一度発病すると必ず死に至るのです。
 この狂牛病の病原体は 「プリオン」と呼ばれる蛋白で、スローウイルスとも呼ばれますが、実はウイルスでも細菌でもない病原体なのです。プリオンは、DNAやRNAなどの遺伝子物質を持たず、自己増殖することはないのですが、紫外線、熱、ホルマリンなどでも、毒性を失わせることはできません。
 人間にみられるプリオン病の代表的なものに「クロイツフェルト・ヤコブ病」があります。この病気にかかった人の脳は狂牛病同様、脳細胞が破壊され空洞となり、大脳全体が著しく萎縮しています。
 英国政府は1996年3月になりやっと狂牛病がヒトに感染する可能性のあることを認め、4月には、R・ウイルらが、『ランセット』誌上で、これまでにないクロイツフェルト・ヤコブ病が狂牛病の牛肉から感染した可能性があることを発表しました。
 ここで強調したいことは、この狂牛病はヒトにも動物にも感染する、「人獣感染症」の一つであるということです。忘れられていた人獣感染性が、身近に復活しています。

地鳥の刺身が感染源に

 44歳の銀行員であるF氏は、地方出張から帰るとすぐで当クリニックを訪れてきました。主訴は「腹痛と水様の下痢」でした。
「何か悪いものでも食したのでは?」との問いに、「……そう言えば地鳥の刺身を食べました」と、やっと思い出したという口調で答えが返ってきました。
 早速、便を調べてみると「カンピロバクター」という細菌が同定されました。この菌はサルモネラとともに家禽に広く分布し、鶏肉を感染源としてヒトの下痢症の原因となります。ある調査では、食肉販売店から採取した検体からかなりの高率でこの菌の汚染が認められています。
 その他の人獣感染症には、牛乳、チーズを原因とする「リステリア症」、イヌ、ネコ、ウシ、シカ、イノシシを吸血したマダニによって媒介される 「ライム病」、動物や食肉を扱う職業従事者にみられるQ熱は 「リケッチア感染症」です。インコやドバトから感染する 「オウム病」もあり、日本では撲滅された日本住血吸虫も東南アジアでは今なお危険な寄生虫です。「君子、危うきに近寄らず」 が何よりの予防法です。





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