血尿・蛋白尿とIgA腎症

はじめは自覚症状のない慢性腎炎

 会社での健康診断のシーズンになり、血尿や蛋白尿が発見される機会も多くなってきています。高血圧症を家系に持つK氏(55歳)は、健康診断で「血尿あり、要精査」と言われたのが来院の理由でした。
 血尿の原因としては、腎・尿路系の結石、腎のうほう、膀胱炎、腎・尿路系の悪性腫瘍などがあります。さらに忘れてならない重要な病気に慢性腎炎があるのです。
 慢性腎炎は腎機能障害が1年以上続いて認められる腎炎の総称です。慢性腎炎は急性の腎炎から進展してくるケースはむしろ少なく、原因はまだ解明されていません。
 しかし、多くの場合は、免疫ネットワークの異常が関与しており、それに血液内の成分の異常や高血圧などが促進因子となり、腎障害を進行させていきます。
 この病気が進行すると、蛋白尿、血尿、高血圧、むくみなどの症状が現れますが、徐々に障害が進むために自覚症状はほとんどありません。したがって、検診で初めて発見されることが多いのです。

大豆たんばくも誘因抗原に

 日本人の慢性腎炎では、「IgA腎症」といわれるタイプの発生頻度が世界一高く、30~40%以上にも上ります。
 IgA腎症の診断基準ですが、大部分の症例は無症状で、持続的顕微鏡的血尿および持続的(または間欠的) 蛋白尿があれば、本症の可能性は80%以上です。血液検査では血清IgAが350mg/dl以上のことが頻繁に見られます。
 本症の確定診断は、腎生検による糸球体の観察が唯一の方法です。光学顕微鏡所見ではメサンギウムの増殖生変化を認め、蛍光抗体法を用いると、びまん性にメサンギウム領域を中心とするIgAの沈着がみられます。すなわち、IgA腎症の由来は、IgAを主とした抗体による免疫複合体が腎の糸球体に沈着するので、この名が付けられたのです。
 この病気の主役は遺伝的要因ですが、誘因となる抗原として、細菌やウイルス、食物たんばくなどが報告されていますが、食物では大豆たんばくが特に注目されています。
 IgA腎症の治療法は、薬物治療、食事治療、運動制限が三原則で、病状によりどれに重点を置くかを決定します。薬物治療では、血小板の活性を抑えて腎の炎症を抑制する「抗血小板薬」が使用されます。食事では、腎臓に負担をかけないように、たんばく質は体重1kg当たり1gぐらいが目安です。塩分は1日7g以下です。運動は、ゴルフやテニスを楽しむ程度がよいでしょう。また過度の時間外勤務はさけるべきです。
 K氏に対しては、たんばく尿と血圧が重症度をはかる目安なので、3ケ月に一度の受診を約束していただきました。





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