持続性下痢と過敏性腸症候群

突然の下痢と腹痛が・・・

 40歳になるK女史は、社内でもその几帳面さが高く評価されており、人事異動の時期を迎え、彼女も過去の実績を買われて、営業部のリーダーとして抜てきされたのです。しかし、新しい部署での仕事は、相当のストレスとなったようです。
 症状を詳しく伺ってみると、この頃特に下痢と腹痛に悩まされ、出社するのも嫌になるほどとか。以前より時々腹痛を訴えることがあったのですが、排便により腹痛は軽くなるので、特に気にも留めなかったようです。便通は、便秘が数日続き、その後下痢となり、また便秘となるのが通常のパターンだったそうです。
 ところが、この2週間は下痢が続き、出勤時には特にひどく、電車に乗っても各駅ごとに降りてトイレに駆け込むような状態なのです。
「この数日は特にひどく、キリキリと絞るようになり、便にも粘液が混じるようになってきました。何か悪い病気にでもなったのでは?」と、深刻に悩んでいるようです。
 どうも状況から判断して、いわゆる「過敏性腸症候群」であるらしい。これは、消化器系の心身症の一つの型です。この診断を得るためには、器質的な疾患がないことを確認しなければなりません。何しろ、便通の習慣が変わったら大腸癌を疑え、と言われるほどですから。
 とりあえず、大腸のⅩ線検査と糞便検査を受けていただきましたが、緊張の亢進した大腸と、その嬬動の激しさを認めたのみで、腫瘍の所見はありません。診断は過敏性腸症候群でよいでしょう。

まずはストレスの解除がポイント

 この疾患は、ストレスと大変関連性が強く、自律神経失調症と深い関係があります。タイプが結腸痙攣型、神経性下痢型、粘液疝痛型の3つに分けられますが、神経性下痢型から粘液疝痛型に移行することが少なくありません。
 結腸の痙攣が強い時には、便が兎糞状となります。夜間に下痢を起こすことはなく、睡眠が妨げられることもありません。腹痛が早朝覚醒時に多いのは、睡眠時には副交感神経機能の方が優位であるためと考えてよいでしょう。腹痛の部位が一定していないことが多いのも特徴です。
 過敏性腸症候群の治療は、何よりも不規則な生活を避け、ストレスの解除が第一です。またこの病気が重大な疾患ではないことを理解していただく必要があります。治療中の中心となるのは抗不安剤、自律神経調整剤、腸管の機能亢進を抑制する抗コリン剤です。
 食事療法については、今日では消化のよい低残査食より高残査食が勧められています。長時間の低残査食は結腸内圧を高め、大腸憩室の誘因となると考えられているからです。
 このケース、まずはストレス返上にて、一件落着となりました。





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