ヘリオトロープの瞳・皮膚筋炎

急死の原因となることも

 梅雨も明け、日差しも強くなったある日の午後、42歳の某商社に勤務しているOLのK女史が訪れてきました。主訴は、顔面に赤い湿疹が出て困っているとのことでした。
 一見、日焼けによる日光皮膚炎か化粧品によるアレルギー性皮膚炎かと思ったのですが、よく診るとそのいずれでもないことが判明しました。両側の瞼(まぶた)は浮腫状に腫れていて、鮮やかな赤紫色の皮疹を認めました。両側の頬にも、ちょうど蝶の形に紅斑を認め、手の小関節の外側(伸側)にも赤い湿疹様の紅斑が見られました。
 これらの症状は、皮膚筋炎という膠原病に特徴的な所見なのです。黒い瞳と赤紫色の瞼が対照的で、私はそれをヘリオトロープの瞳と呼んでいるのです。
 皮膚筋炎は、5~15歳と40~60歳の発病年齢に二つのピークを持ち、男女比は1対4と女性に多い病気です。皮膚筋炎の症状は、先に述べた皮膚症状のほか、筋肉の症状を伴っています。その典型的な症状は筋力の低下で、体幹に近い筋肉に始まり、持続的であるのが特徴です。階段の昇降時や起立時、頭の上下、入浴時などに気付くことが多いのです。筋肉痛も60%の症例に認められます。
 ここで注意を要するのは、筋炎が心臓にも及び、心筋炎を呈する点。こうなると、房室ブロックや不整脈が起こり、急死の原因となります。
 このように症状は多彩ですが、皮膚症状のないものもあり、多発性筋炎と呼んでいます。いずれにしても横紋筋の炎症を基本的な病変とする全身性の炎症性の病気です。

ステロイド療法が有効

 この病気は原因不明で、病気に特異的な検査法はありません。診断基準として、①対称的な近位筋力の低下、②筋原性酵素増加、③筋電図所見、④生検所見、⑤皮疹のうち、4項目以上で確定診断、3項目では疑診とします。
 治療に先立ち、悪性腫瘍は注意深く検索します。悪性腫瘍を伴う筋炎があるからです。治療目標は、筋炎の鎮静化、筋力の保持と回復です。長期的に見て関節屈曲性の拘縮などの運動機能障害を最小限にすることです。
 薬物治療には、ステロイドホルモンと免疫抑制剤が使用されますが、ステロイドホルモンが第一次選択薬で薬物治療の基本となっています。筋炎に対するステロイド療法の効果は、およそ80パーセントの患者で見られ、ほとんどの患者が通常の生活が可能となります。
 K女史のケースのように、一見なんでもないように見える発疹にも重要な病気が隠れていることがあります。ちょっとした異常所見でも、自己判断に任せず主治医と相談して治療方針を定めることが予後の良否につながります。





inserted by FC2 system