土と健康・Vegetabies

土と健康・Vegetabies田島内科クリニック院長 田島 佐一郎
「土と健康」

 私は、山口県下関市(の郊外近く) に、診療所をひらいているものです。
 私の健康法と、おおげさに言えるかどうか分かりませんが、私は次の言葉をモットーとしています。「健康な体は、健康な作物から、健康な作物は、健康な土壌からできる」
 現在、野菜について言えば、①季節性がなくなつた、②昔の独特な野菜の味がなくなった、と言えると思います。
 便利で快適な生活が、現代の特徴なのですが、それを野菜にまで求めていると思われます。
 それはさておき、健康な野菜の基となる健康な土作りですが、それは、その人が専業農家か、趣味でやっている人か、又、田畑の大きさ、又、住んでいる環境等で千差万別かと思われます。
 ここでは都市生活者の立場で話をしていきます。最初、私が家庭菜園を楽しむようになつたのは、家を新築した20年前にさかのぼります。私の家は、蓮田を埋めたてた土地にできています。埋め込んだ土は、まさに、がれきの土でした。約5坪ほど余裕があったので、畑にしようと開墾しました。ツルハシ、スコップを入れると、石やガラクタにすぐ当たる土でした。必死の思いで約50cm程掘り起こし、石又ガラクタを取り除き、家の敷地又近所の空き地等に生えている雑草などを土の中に埋め込みました。
 次に、家から出る残飯類は穴を掘って保存して、ある程度腐ったら畑を掘り返して、埋め込んだりして、土の肥沃度を高め、季節の作物、例えばトマト、ピーマン、キュウリ、大根、人参、エンドウ豆等を作って楽しんでいました。
 ところが、3年程前、患者さんからBMW (微生物ミネラル水の略) についての話を聞きました。さっそく、その本を読んでみました。その本には、微生物の大切さと、ミネラルの重要さにふれ、畜産物の排泄物から、液肥を作る方法が書いてありました。
 それを参考にして、液肥作りを始めようとしました。自分みたいな都市生活者にとって、微生物を生みだす汚物は、食事の残り物ぐらいしか、思い浮かびません。だから、次のものを準備しました。
①残飯
  微生物の発生源
②水に溶けやすい小さな石
 例えば花崗岩等、微生物の住処となり、ミネラルの源となる。
③エアーポンプ
 曝気用、好気的分解を行うために必要
④ポリ容器類
 試作してみて、さっそくできた液肥を50倍ぐらいに薄めて、畑、植木等に撒いてみました。撒いた後、くさい臭いがして、家の者又、医院の植木にも撒いたので、従業員のヒンシユクを買いました。それでもめげずに、くさい液肥をあたり一面に撒き散らしていました。
 効果の程はと言いますと、撒いた後2週間ぐらいしたら、植物が元気になるのです。葉っぱが大きくなったり、葉の色がツヤツヤしたり、花が咲き終わった植木にまた、花が咲き出したり、等異変が生じました。
 その即効性に勇気づけられて、くさい臭いを撒き散らしました。しかし、臭いも徐々に消失してきました。曝気する時間を長くしたら、臭いもなくなってくるのです。そこまで達するのに、約半年かかりました。
食物連鎖 食物連鎖と言う言葉があります。弱肉強食と言う関係を意味しています。
 一方、物質の循環から考えると、全ての物は土に返り、分解者(小型動物、バクテリア)の手によって分解され、土に返っていくのです。
 以前は、人が食べた物は、全て土に返していたのですが、現代、ヒトは人糞尿を人工的に処理して海に流し、残飯の大部分はゴミとして処理されています。つまり、物質の循環から考えると、断ち切られているのです。それを補充する為に、ヒトは化学肥料というものを考え出しました。
 次に、岩田進午著作「土のはたらき」 からの話を引用します。肥料三要素の消費量
 「現代農業は、一般に、以前の農業に比べて、きわめて多量の養物が施肥されているように思われがちです。実際はどうなのでしょうか、図2を見てください。1950年の施肥水準は、戦前のそれとほぼ等しいとみなされています。1980年は、現代農業がすでに確立されている年です。両者を比べてみると、80年の施肥水準は、リン酸では50年の1.7倍前後になつているものの、カリで微増、窒素にいたっては減少すらしています。
 そこで、各成分の施肥量のなかで、有機質肥料が占める割合を調べてみたのが図3です。
 すべての要素にわたって、その割合が、80年に激減しているのがよく分かります。すなわち、現代農業の特徴の一つは、投入する養分の量にあるのではなく、その質にあるのです。
有機肥料が占める割合 なお、1950年の有機肥料の内容をみると、堆肥45%、人糞尿33%、その他22%となっています。人糞尿の割合がたいへん高いのです。しかし、1980年になると、人糞尿の使用は、ほぼ皆無となつています。わが国では、古くからこのように人糞尿が重要な肥料源として用いられてきました。欧米人は、このことをどのように評価していたでしょうか。
連鎖 我が国では古くから人糞尿が、重要な肥料源として用いられてきました。
 この点について、興味深い文献があります。近代有機化学の父と呼ばれるリービッヒの著書「化学の農業および生理学への応用」 に付録として記載されている論文(1862年) です。筆者は、プロシア王国東アジア調査団員のマロン博士。内容は、江戸時代末期の日本農業についての調査報告です。そのなかに、次のような事が書かれています。
 朝には土地の産物を都市に運んだ純朴な人夫の列が、夕には二つの肥桶を担いでいくのを見かける(中略)つまり、我々の前には、自然力の完結した循環の壮大な図式が成り立っているのであって、連鎖のどの環も抜け落ちることなく、次々と手を取り合っているのだ。
手を取り合っている つまり、日本においては、都市と農村の物質循環が正しく行われており、すばらしいと言っているのです。この指摘は、現在でも通用するもので、みんなで十分考えていかねばならない問題だと思います。
 又、北は北海道から南は沖縄まで、日本全国の土壌分析を続けて、畑地の野菜、果物栽培指導を行っている中嶋常允さんという人がいます。
微量要素が欠乏していないか 作柄がすぐれないとの訴えで診断を依頼された中嶋氏のチェックポイントは、何よりもまずボジョウ土壌の化学成分のバランスで、それも窒素、リン酸、カリなどの肥料成分だけでなく、特にマンガンや、鉄、亜鉛、鋼、ホウ素、モリブデンといった、いわゆるミネラルと呼ばれる微量要素が欠乏していないかどうかです。
 微量ミネラルは、体の中でとくに酵素の働きを盛んにする活性基と呼ばれる物質として機能していることが分かっています。
 酵素は、体の中のさまざまな反応を促進する触媒の役割を果たす物質で、人間には、おおよそ2000種類もあるといわれています。
 氏によると、「全体を平均して考察してみますと、およそ、リン酸、カリは過剰のところが多いことがわかります。石灰、苦土の過剰もみられます。野菜特に連鎖障害の出ているところは、窒素含有量が多く、またEC (電機伝導度)も高くなっています。これらは、たいがい肥料のやり過ぎです。それに対して、マンガンや鉄、亜鉛や銅などの微量ミネラルは、ほとんどの所で欠乏しています。ホウ素の欠乏も見られますが、これは比較的少ないようです。またもう一つ分かることは、水田は灌漑水から補給されているためか、畑作地のような欠乏土壌はあまり見られません。」
茄子 以上、長々と話しましたが、ここで強調したいのは、人糞尿の大切さと、微量ミネラルの大切さです。それが現在、完全に不足しているのです。不足しているが為に、昔の野菜の味が出ないのです。
 私が作り出した液肥は、微生物とミネラルが豊富で痩せた土壌を蘇生させ、植物を元気にしてくれます。だから、この液肥を家族みんなで考えて、「元気水」と名付けました。
 元気水を使っていると、例えば、プランターに植えていたエンドウ豆が大きくなり、背丈が畑で植えているのと変わらなくなり、味も大変甘くなります。ピーマンの木が異常に大きくなり、又、みかんの葉っぱが大きくなり、背丈もぐいっとのびます。又、モモの木は、いつもは虫が発生して、実が結実できないのですが、虫の発生がおさえられ実ができるようになりました。
トウモロコシ 私は、上の様な成果をみて、野菜・果実栽培に強力な武器を得たと喜んでいました。で私は、野菜、花などを作っている人に勧めてみました。結果は、即効性で私と似たような効果が見られました。
 ところで、私の畑には、10年前より柿の木を植えて今では、2~3坪しか利用できなくなっていました。野菜作りをしたいのと、この液肥を自分で試してみたいのとで、当時、畑を作る所を探していました。1年間ぐらいかけて、やっと家から18km程はなれた所に、約120坪の畑を手に入れることができました。
 そこは宅地の跡です。1つの古びた小屋だけ残して、後は整地しました。草を取るのに便利なように、真砂土を30cm程入れました。平成九年十一月一日より、私の野菜作りが砂漠の様な所で始まりました。
 最初は、液肥の効能を試す為、他の肥料は使わずに、液肥オンリーでやってみました。それで、エンドウ豆、トウモロコシ、空豆、大豆、あずき等はうまく収穫できましたが、玉ネギ、インゲン豆、じゃがいも等はさんざんな出来でした。平成十年六月頃より、牛糞、鶏糞、油かすを加えて行うようになりました。成果はと言いますと、農作物の評価を自己採点してみました。(左図参照)
自己採点 以上の様な成果です。これから徐々に進歩していきたいと思っています。味の程はと言いますと、葉物は、生で食べられ、柔らかく、肉厚で、比重が重く、山東菜などは最後に苦味(微量のミネラル)までします。臭いもひどく、例えば、ネギを車のトランクに入れますと、くさくて運席に乗っておれないくらいです。又、里芋は口の中でとろける様な味がします。つまり昔の野菜の味が再現されるのです。
 現在、食欲がなく、元気のない患者さんや従業員の人に時に少しずつ分けています。又、親戚連中に、宅急使で送ったりしています。驚くことに、私には、娘が一人いるのですが、彼女が友人のところへ旅行に行く時は、必ずお土産として、野菜を持っていっています。
 私の所には、アトビー性皮膚炎の人がたくさん来られるのですが、アトビー性皮膚炎の原因として、SOD (活性酸素を除去する酵素類)か不足して、皮膚炎を生じる人がいます。SODには、亜鉛や鋼、マンガンが活性基として働いています。この微量ミネラルが不足して、皮膚炎を起こしている人がいるのではないか、そういう人に、自分が作った野菜を食べてもらったら、治療になるのではないか等、考えを思い巡らしています。
大根 私には、畑にかける時間が限られています。今の所、一週間に約10時間ぐらいですが、もう少し畑を増やして、広く作ろうと思っています。
 日本全国には、独自のやり方で、土壌の肥沃度を高める創意工夫をしていらっしやる人がたくさんおられると思いますが、私の作った元気水も土壌の蘇生の為、非常に有効と考えられ、希望者があれば一緒にやってみたいと思ってペンをにぎりました。
 健康な土を作って、健康な作物を作り、元気な体になりましょう。





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