前立腺肥大症

前立腺肥大症とは

 前立腺肥大症は五十歳前後の男性が多くかかる病気で、広い意味では、男性の更年期障害に該当します。前立腺は膀胱のすぐ下に尿道を取り囲むように位置し、尿の流れとセックス機能をコントロールしています。
 前立腺肥大症は加齢によって男性のホルモンのバランスが崩れ、前立腺の内部にあたる内腺に良性の腫瘍ができて肥大し、「尿の出が悪い」 「トイレが近い」 「就寝中に何度もトイレに行きたくなる」といった障害が出てきた状態をさします。
 これらの症状は適切な治療を受ければ必ず治りますので、これらの症状で悩んでおられる方は、一度専門医による検査を受けられることをお勧めします。

前立腺肥大症の症状の進行

 前立腺肥大症は、尿の出方によって症状が三段階に分かれます。

(第ー期) 膀胱刺激症状期

 内腺(前立腺の内側)が腫れてくると、どうしても尿道が圧迫されて刺激されるため、排尿の回数が増えてきます。これを「頻尿」と呼びます。
 ①日中、排尿後2時間以内にまたトイレに行きたくなる
 ②就寝時にトイレのため2回以上起きる
 以上の項目に該当する方は頻尿の症状にあるといえるでしょう。
「就寝時はトイレの回数が二、三回であっても頻尿と判断される」のは、通常、人間の体が夜間には休むようコントロールされており、なるべく尿意を起こさず安眠できるよう、排尿に関しても夜間はそれを抑制するような抗利尿ホルモンがつくられているためです。このホルモンは加齢とともに減少してきますので、年配の方であれば、就寝時のトイレもある程度までは自然な生理現象とすることができますが、あまりに回数が多いようならば前立腺肥大症による頻尿を疑った方が良いでしょう。
 また、この時期の他の症状としては、「尿が出はじめるまでに時間がかかる」 「尿の勢いが衰える」 「尿を終えるまでに時間がかかる」といったものがあります。

(第二期) 残尿発生期

 前立腺肥大症がさらに進行しますと、排尿しても尿が完全に出きれていないような感覚、すなわち「残尿感」が生じてきます。これは、膀胱を収縮させる筋肉の力が弱まった結果、溜まった尿を完全に排出することができなくなったためです。残尿があるということは、常に膀胱に尿が溜まっている状態ですから、ますますトイレが近くなってしまいます。
 このほか、この時期の症状には「排尿後にペニスを仕舞ったとき、残っていた尿が漏れる」「血尿が出たり精液に血が混じったりする」といったものがあります。

(第三期)膀胱拡張期(慢性尿閉期)

 第三期は、第二期から症状が進んで、常に膀胱に400cc以上の尿が溜まった状態をさします。通常、男性が膀胱に溜めても我慢できる尿の量は500~600ccなのですが、常に膀胱に尿が溜まり慢性的に膀胱が拡張していますと、それ以上の尿が溜まっても、尿意や苦痛を感じなくなってしまうのです。
 こうなってしまいますと、膀胱に炎症が起こつてくるほか、尿を作っている腎臓への悪影響も出てきます。その中には、腎孟炎や腎不全、尿毒症のような、生命さえ脅かしかねない病気もあることを忘れてはなりません。
 ほかにも、この時期の症状には「いきんでもなかなか排尿できない」 「あるときから尿が全く出なくなる」といったものがあります。いずれにしても医師の診断を受けることが必要です。

前立腺肥大症に似た症状が出る疾患

 ①前立腺ガン
 前立腺ガンは前立腺の外腺に悪性の腫瘍が発生したものです。初期には特別な自覚症状がなく、定期的な検診以外には早期発見が難しい病気です。症状が進んでガンが前立腺の外側にまで広がってきますと、トイレで尿が出るまで時間がかかる、残尿感がある、就寝時も頻繁にトイレに行きたくなる、などといった前立腺肥大症に似た症状が出てきます。
 前立腺ガンは日本ではまだガンの部位別では上位にランキングされていませんが、近年その発生率は非常に増加しています。これは日本人の食生活が高タンバタ・高脂肪の食品・食事に傾いてきたことや、豆類の摂取量の低下がその理由となっていると考えられています。
 なお、この前立腺ガンは、前立腺肥大症に似た症状だけではなく、足や腰への痛みといった形であらわれてくることもありますので、注意が必要です。
 ②尿路結石
 尿路結石は腎杯結石、腎孟結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石といった症状の総称です。この尿路結石が膀胱や尿道にできた場合、排尿時に尿が途切れたり痛みを感じる、あるいは頻尿や残尿感といった前立腺肥大症に似た排尿障害が発生することは少なくありません。
 尿路結石の原因はまだ特定されていません。代謝異常や腎臓の排泄障害によって、結石のもとになる物質が尿の中に過剰に含まれてしまうことや、現代において食生活が動物性タンパク質を多く摂る方向に変化したため、尿の中にカルシウムや尿酸が多量に排出されてしまうことが結石の原因となると考えられています。
 ③前立腺炎
 前立腺炎の特徴として、急性と慢性の二種類に分けられること、また前立腺肥大症とは異なり年齢に関係なく発症しやすいことがあげられます。
 急性前立腺炎の場合は、高熱のほか残尿感や頻尿、排尿時の痛みが伴い、時には尿がまったく出なくなる尿閉といった症状があらわれることもあります。セックスまたは尿道カテーテルなどから、淋病・クラミジアなどの細菌が尿道に入り込み、炎症となるのが原因です。
 慢性前立腺炎の場合も同じように、頻尿や残尿感といった症状があらわれますが、これといった原因がみつかることはありません。

前立腺肥大症と日常生活

 前立腺肥大症との診断が下されましたら、適切な治療を受けていくことの他に、日常生活でもいくつかの改善を行うよう心がけてください。運動 

①適度な運動をする

 体を動かさないと、前立腺が充血して腫れやすくなります。散歩などの運動をなるべくするとともに、座っての仕事を長時間される方は、立ち上がって伸びをするなど、意識的に休息をとることを忘れないようにしてください。
 また、長時間にわたる自転車やバイク、車の運転もできれば避けるようにしてください。

②ゆっくりと入浴する

 下半身の冷えは、全身の血液の循環の悪化や前立腺のうっ血を引き起こします。毎日の入浴はぬるめのお湯に二十分程度つかるようにすると良いでしょう。

③アルコール類と辛いものを控える

 アルコールや辛いものをとると、前立腺が刺激されて充血してきます。できるだけひかえるようにした方が良いでしょう。

④膀胱刺激症状期(第1期)では日中に水分を摂る

 第1期の方は、日中は水分を多めにとるようにします。水分を多めにとることで、一回の排尿における尿量が増えるので、排尿がスムーズになります。水やお茶、特に利尿作用のある紅茶をとると良いでしょう。逆に夕方以降は夜間頻尿を抑えるために、水分の摂取をひかえるようにします。
 前立腺肥大症そのものは、適切な治療を受ければ生命が危険にさらされるような病気ではありません。ただ放置すると、膀胱炎、前立腺結石、腎孟腎炎、慢性腎不全といった病気を併発するおそれがあります。医師の診察を受けること、および生活習慣の改善にて、早期発見・早期治療を心がけるようにしましょう。



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